先日、著名な投資家でバークシャー・ハサウェイ代表のウォーレン・バフェットが95歳で遂に引退することが大きなニュースになりました。バフェットの最後の手紙も話題になりました。
このコラムでは、バフェットの投資家としての業績ではなく、もっぱらその人間性から私が感じた、人として生きるべき一つの指針を書きたいと思います。
私自身、毎年ネブラスカ州のオマハで開かれるバークシャーハサウェイの株主総会にも行きたいとずっと願っていましたが、コロナでの会場開催の中止、2023年の共同経営者のチャーリー・マンガー氏の逝去などが続き、結局行けないままバフェットが引退することになりました。
会社はこの先もバフェットが信頼する後継者によって継続されますが、歴史的な人物を目の当たりにするタイミングを逃したのは残念でなりません。
バフェットの知名度と誤解
偶像としてのバフェット
日本ではバフェットは、別名オマハの賢人で知られ、割安な株式を仕込み長期的な値上がりを待つバリュー投資家としての側面でもっぱら語られているといえます。

またバリュー投資家としての側面以外にも、チェリーコークやハンバーガーなどの質素な食事を好むこと、自動車や家も若い頃から変わらないものを使う質素な生活レベルであることなど、全財産の99%を子供に直接相続せず財団に寄附することを表明しているなど、数々の逸話が、特にここ最近のメディアでの節約や積立投資などの文脈と適合性が高かったといえます。
いわゆるウォール街の強欲な投資家像と違う好人物としてのイメージで日本で人気を博したといえます。
バフェットの伝記を紐解く
もちろんそれも一側面ではありますが、バフェットの伝記“スノーボール”を読むと他にも多くの面があり、一筋縄ではいかない人物であるとわかります。
このスノーボールはバフェットの唯一の伝記で、若い頃から本が書かれた2014年(84歳)までのバフェットの事績を追ったものです。ここに出てくるバフェットは決して聖人ではなく、むしろアメリカらしい欲望の肯定と自己実現の前向きさに溢れた人物でした。

※画像は Amazon.co.jp 商品ページ(スノーボール上巻)より引用。
それでもなお、一人の人間として最大限の素晴らしい人格を感じさせてくれる人物でした。ここに私が気づいたいくつかの面を記載しておきます。
バフェットの支配者的側面
企業再生家としての側面
まずに言えることは、ただ割安な有価証券を見つけ長期保有する好々爺の投資家ではなく、極めて冷徹な企業再生の人であるということでしょう。そのためにはしばしば企業買収後の経営介入とリストラ、事業再生を行ってきました。特にワシントンポストへの投資で、投資資産を半分にしながらも役員として会社再建のために経営参加し、ついに多額のリターンを得た話が著名ですね。

バークシャーハサウェイの起源
また1960年台に、買収した破綻寸前の繊維会社を法人体としては継続させながら、事業内容はまったく別種の投資+保険会社、すなわちバークシャーハサウェイに再構築したのもその一環と言えます。そしてこれがバフェットのその後の活動基盤になりました。
決して労働サイドに立った人物や篤志家ではなく、自分の資本最大化の論理で動いているのは確かです。ただしその方法論は、過度な企業の解体や資産売却を伴わず、あくまでも会社の再建に優先度が高い点で、今のアメリカではごく良識的と言えます。

バフェットの身内志向
身内が出資したファンドから始まった
バフェットは、たとえばイーロン・マスクやビル・ゲイツのように広範な交友を持つと言うよりは、ファミリー志向が非常に強い人でもあります。大都市に拠点を移さず、人生をずっと生まれ故郷のネブラスカ州のオマハで過ごしているのもその一つの現れでしょう。

投資事業でも、原資は広くパブリックな出資を募るのではなく、身内から出資してもらい身内で利権を固めていくという保守的な方向が強いと言えます。身内として家族と友人知人を含めて、人生で出会った中で自分の信頼がおける人によるクローズドなサークルを大事にしています。自分ともっとも思考が似ているとして最大限に尊重したチャーリー・マンガー氏もその一人ですね。
身内還元のためにバークシャーハサウェイは作られた
バークシャーハサウェイも、もともとはそうした人々への利益還元の意図で投資会社になったようです。ただしバフェットのユニークなところは配当や財産分与は一切せず、利益は再投資にまわしバークシャーハサウェイの企業価値を高め、株価を上げることに専念してきたことですね。

これは自分の投資哲学に絶大な自信があったからできたことだと思います。
選民主義と公平主義
一般の投資家は経営面でハンデを背負う
またバフェットは後にバークシャーハサウェイが株式公開をした後、すでに高値がついて流通量も少ないバークシャーハサウェイ株を一般の人が買いやすいよう、1500分の一の値段で売買できる“B株”を発行し、しかし議決権は通常の株式の1万分の一に抑えました。
これも信頼できない人からの経営介入を防ぎながらも、マーケットでの流動性を確保し、極めて巧妙な判断といえますね。
バフェット自身はB株保有者のことを“可哀想な人々”と言っているようです。資本主義の本質から言えば、議決権こそが証券の価値であり価値の低い有価証券と言えます。

利害関係者としては公平に扱われる
しかしバークシャーハサウェイの投資成果を直に受け取れる利害関係社になるわけで、その意味で非常に価値の高い有価証券とも言えます。
このB株も極端な身内主義の表れだと思いますが、それでも私を含めたB株の保有者が納得ずくで買いバークシャーハサウェイの恩恵に与ってきたのは、意思決定には選民的だが利益は公平にというバフェットの哲学が現れていて面白いと思いました。
バフェットから学ぶ理想の人生のあり方とは
私が考えるバフェットの魅力とは
ここまでバフェットのさまざまな側面を振り返りましたが、これらが何にも増して人間的な魅力に感じられる点だと思います。
1、人生で自分の信頼できる仲間や家族、一族を少しずつ増やす。
2、これらの人々のために誠実に生きる
3、ファンドを通じて周囲の人を経済的に引き上げる
4、資本のみの関わりの人は意思決定には関与させないが、経済利益は公平に与える
聖人君主ではないですが、暖かく厳しくまた誠実な家長の姿が浮かび上がってきます。バフェットとは、投資家であると同時に、ファンドを媒介として繋がった一つの一家の家長として、その生き方でも人類史に確たる足跡を残したと言えます。
偉大な族長として生きるということ
日本人の人生についても、自分の人生・事業・一族。三つが逸脱せず共に成長していく、これは理想の人生のあり方だと思います。日本史上だとまず徳川家康とその後の徳川家を想像させますね。

過去の偉大な一族の創始者の英雄譚を、この現代資本主義の世界で実現したこと、そのための様々なマインドセット。これこそがバフェットから学べる最大のポイントではないでしょうか。
そしてバフェットの財産の99%以上は50歳以降に築かれた、という話を聞くたびに、人生は準備さえあれば何歳からでも成長できるし、これこそが大器晩成の人生の最大の成功例として、私たちを魅了するのだと思います。


