さきごろのイーロン・マスク氏が2つの発表を行いました。
これはただテスラ社やX社のみならず、今後の企業や我々自身の未来について深く考えさせられるものでした。
内容を簡単にご紹介するとともに、私の考えを備忘録程度に記しておきます。
1、Xが個人から高金利で資金調達をする話
X Moneyというサービスが始まる
3/11にイーロン・マスク氏は、X Moneyという新サービスのベータ版ローンチを発表しました。

これは“預金金利6%。買い物には3%還元。メガバンクの金利がギャグに見える”という、個人対象の金融商品で、アメリカ人ならX上で使えるようになるようです。
参考記事
X Moneyは単なる「金利6%のおいしい預金口座」ではない! マスク氏が27年越しに狙う「X内経済圏」戦慄の正体(東洋経済 2026/3/13記事)
X Moneyの驚くべき内容
驚くべき点は多数あります。
1つ目はなんと言っても年利6%の高金利でありながら、いつでも解約可能という点です。
同様の商品を探そうと証券会社のラインナップを見ても、通常のドル建て社債であれば、年利6%を超える商品は償還期間が25年から30年以上のものに限られ流動性が落ちます。

また償還期間が10〜15年の場合、年利4〜5%がせいぜいと言ったところです。

このような条件下で、このXの預金商品は、金利も流動性も著しく預金者有利と言えます。
2つ目は既存の金融機関を通さず、Xアプリ内で完結する事でしょう。
これは大手のプラットフォーマーであれば金融機関の中間マージンを排することができることを意味し、金融機関にとっては大きい脅威になると推測します。
3つ目はこれほどの充実度でありながら、通常の米国の銀行預金と同様、25万ドル預金補償が付くという点です。この点、社債より安全性が高いということになります。
なぜ預金者有利のサービスを展開するのか
なぜこれほど預金者有利な商品を展開するのでしょうか。
リンク先の記事ではXのプラットフォームで完結できる経済圏を狙っていると推測しています。ただ私はそれだけではないと考えます。
おそらくイーロン氏は近い将来に資本主義の大きなパラダイムシフトを予見し、特に時間の価値を最重視し、時間が足りないという焦りが非常に大きいのではないか、と推測します。

このため高金利を支払っても兎に角今すぐにでも資金を調達したいのではないか、というのが私の読みです。
その根拠はイーロンマスク氏のもう一つの発言を紹介した次の記事によります。
2、預金が無意味になるという予言
AIと自動化のもたらす未来予想
2026/1にイーロン氏は“退職後のために貯蓄するのは無意味になるだろう”という発言をしました。これはAIとロボティクスの発展で生産性が爆発的に上がり、労働・賃金・貯蓄という従来の経済モデルが解体されるというものです。
参考記事
イーロン・マスク「退職後のために貯蓄するのは無意味になるだろう」(BUSINESS INSIDER 2026/1/17記事)

このことで個人の労働と生活水準の結びつきが断たれ、「ユニバーサルな高い所得(universal high income)」の状態になり、「欲しいものは何でも手に入る」ようになることから、遠い将来のためにお金を蓄える意味は小さくなるという予測です。
この予言通り将来テクノロジーの進歩で労働は無意味になる程に価値が下がり、給与、ひいては貨幣の価値が無くなる未来が来るのでしょうか。

どこまで正確な未来予想かは分かりませんが、現在世界最大の個人資産をもつイーロン氏が貨幣の価値の暴落を預言していることだけでも注目すべき事だと思います。
なぜ貨幣と労働の価値が落ちていくのか
少なくとも、以下のことが言えるのではないでしょうか。
- 生産が爆発的に伸びると、貨幣の裏付けになっていた国力や国の信用が相対的に低下。人類共通の価値だった貨幣の価値が、これからはずっと下落傾向になる。
- 貨幣の価値が下がるので、資本は適切に投資されないと価値が消失していく。
すでにインフレが既定路線になっています。
金利政策などで一時的に抑えられることはあれども、この路線は基本的に変わらないのではないか、というのがイーロン氏の予言から読み取るべきポイントではないかと思います。

3、生産の爆発的な進化は人類の幸せか
この発言で鵜呑みにできないこと
私は、イーロン氏があえて言ってないと思ったことがあります。
それは、仮にテクノロジーで生産性が伸びても、すべての人類が幸福になるというのは絵空事に過ぎないのではないかという懸念です。
膨大な富が生み出されても、資本をもたない人にそれが行き渡るのでしょうか。為政者が皆に再分配するでしょうか。
実現したらイーロン氏の予言通りになりますが、実際は資本・権力・知識によって分配に勾配がつき、格差は拡大するのではないでしょうか。

かつてケインズも読み違えた
約100年前にケインズはテクノロジーの発展で、生産性は8倍になり人間は毎日3時間しか働かなくて良くなると予言しました。しかしテクノロジーの恩恵は一部の人が受け、労働時間が短くなることはありませんでした。
同じことが言えるのではないでしょうか。
参考記事
1日に3時間働けば、十分に生きていける社会がやってくる あなたの仕事は「クソどうでもいい(プレジデントオンライン 2020/10)
このことを当然イーロン氏はわかっており、でも自身はビジョナリーであって政治家や社会運動家ではないのだから、再分配までは言及しない、私はそう思っています。

4、イーロン氏は何を目指すのか
イーロン氏はどんな未来を見ているのか
ここからは私見です。
イーロン氏は、労働と旧来の資本の価値が急速に劣化していく未来が見えており、いっそう自己資本が生き残れる最適化を考えているのではないかと私は考えています。
そして自身はそれを宇宙データセンター、火星移民など通常の資本力では成し遂げられない手段で成し遂げようとしているのでしょう。

未来の勝者になるには今何をすべきか
そのために必要なのは、時間と勝負した急速な成長であり、旧来の金融資本で余計なコストを払っても、すぐ価値が落ちるから惜しくない、ということなのでしょう。
その現れがMoney Xにみる他にはない高金利です。今、可能な限り資金を集め、とにかく早く成長に投資し、労働と金融資本が無価値になった未来での新しい資本の覇者になる、そういう未来を思考していると思います。
5、普通の人はどうなるのか
一般の人が生き残るには
イーロン氏のようビジョナリーになれない私のような一般人はどうなるのでしょうか。
成長志向に乗ってMoney Xの高金利の恩恵を受けるのはアリだとは思います。
また労働が無価値になる未来が実現しても膨大な富の分配もある程度は期待できるでしょう。これは成果が偏る完全な格差社会だと治安が悪化すること、また民主主義が最低限機能する前提ならば、再分配は政策で程度の差はあっても機能すると思うからです。

その未来はどんなものか
ただそこで待っているのは、古代ローマ市民がパンとサーカスを求めたように、あくまでも消費者、年金受領者、給付金受領者としての人間です。

富は別の場所で生産され、労働者は申し訳程度に、意味のないブルシットジョブをし、自分の生産と紐づかない形で再分配を受け取る、そんな未来になるのかもしれません。
主体性を失わないために必要なこと
自分が主体性をもって幸福に生きたいのなら、2つのアプローチが現実的かと思いました。
- 自分の能力を最大限に使い、イーロン氏と同じように資本サイドでの成長に乗る。これはただ資産に投資するのではなく、貨幣の劣化以上に成長スピードを維持する厳しい戦いになります。
- 金融資本での勝負はやめて、家族・友人・恋愛・芸術・手作業など、テクノロジーではとって代われない社会的な資本の充実に注力する。このほうがほとんどの人には現実的かもしれません。

私自身が実現できるかはわかりませんが、このような未来が待っているかもしれない可能性は常にどこかで意識しながら、今後の人生を送りたいというのが、今回のイーロン氏の発言から思ったことです。

