スーパーマーケット・トライアルに見る事業ピボットの核とは

今回は、私が最近注目するスーパーマーケットチェーンのトライアルが二度の業態転換をした事例を通じて、会社はどう事業を転換させ成功していくのかを考えていきます。

スーパーチェーンのトライアルとは

近年拡大するトライアル

トライアルとは、九州発祥のスーパーマーケットチェーンです。展開は九州が中心で、大都市圏ではまだほとんど進出しておらず、特にほとんど店舗がない東京や神奈川の人は馴染みがない方が多いと思います。

2023年に持ち株会社のトライアル・ホールディングスが株式上場し、2025年には西友を買収するなど、注目が上がっているスーパーといえます。2025年末から東京西部を中心にトライアルGoという無人店舗で数店舗を出店するようです。これから都民の方も目にする機会が増えるかもしれません。

トライアルサイト
https://www.trial-net.co.jp

私とトライアル

私が初めて見たのは旭川に宿泊している際に近くの店舗に偶然行った時でした。居抜きっぽいビルの地下に入った一見さびれた雰囲気の店舗でしたが、旭川駅前のイオンにも劣らない品揃えの多い巨大店舗と価格の安さに驚きました。

メガセンタートライアル旭川店にて ※2023/5 筆者撮影

トライアルの強みとは

トライアルの中核は内製IT

トライアルはスーパーチェーンには珍しく、IT開発を外部ベンダーではなく自社内製で行い、リテールDXを自ら称してテクノロジーの大胆な活用を謳う会社です。会計ができるカートレジ、棚管理・仕入れの省力化などを通じたコスト優位の実現で近年注目を浴びている会社です。

データ活用による産官学連携の売り場づくりの実証実験を九州で展開するなど、スーパーチェーンでは珍しい先進的な試みが多く見られます。

これらIT活用の結果としてユーザーにもたらされるのはコスト優位です。他店と比較して価格が安いというのがトライアルの評価のようです。

トライアルの独自性とは

最大のユニークは2回の業態転換

この会社の来歴は極めてユニークです。それはまったく違う業態に2回も転換することに成功している事です。

もともとは福岡のディスカウントストアとして開業したのち、パソコン販売も手掛けたことをきっかけにソフト開発を自社でもするようになり、主に家電会社のソフト制作をするようになりました。やがてこちらが本業になり、ソフト開発会社に業務転換しました。これが1回目の業態転換です。

さらにここからが他社にないユニークな所です。ソフト会社として、POS(小売店のレジ管理システム)ソフト開発を受託したことで、POSのノウハウに強みを持つようになり、より自社の強みを活かせる場所として、なんと自らがスーパーマーケットを経営するようになったのです。これが2回目の業態転換です。

まとめると、ディスカウントストア→ソフト開発会社→スーパーマッケットと、一見無関係の業態に2回も転換し、それに成功しているということになります。

何が業態転換を成功させたのか

この辺はトライアルが自社の沿革としてそれほど語っていないので推測ですが、業態転換の裏には単により収益が上がりそうという見込み以上に、自社の強みであるPOS技術を発揮できるのは何か、という探究が常に働いていたのは間違いないと思います。

一度目の業態転換は、小売からソフト開発に集中したことで強みの技術進化に集中したこと。

二度目の業態転換は、技術的優位の確立をもって小売りで実証実験する場としてスーパーに業務転換したこと。

いずれも創業の業態にこだわるのではなく、POS技術への探究が中核にあり、それを一番発揮できる場として業態が選ばれてきたのでしょう。

先進技術と生活の接点に思う

ここは全くの余談ですが、私はトライアルを見ていると、ドイツ・クラウトロックのCANというバンドを思い出します。
このバンドは、もともと現代音楽の作曲家シュトックハウゼンの弟子たちとしてクラシック音楽理論を学んだクラシック音楽の専門家でした。しかし象牙の塔に留まるのを拒み、大衆との接点としてロックバンドを始め、その音楽理論に基づくリズム構成や電子楽器の活用で1970年代に世界的に有名になりました。
画像をクリックすると該当ページに移動します。
※画像は Amazon.co.jp 商品ページ(CAN”Tago Mago”)より引用。

トライアルとCANの共通点は、自分たちの閉じたコミュニティで完結せず、技術理論の実践の場としてあえて大衆との接点を選択する勇気をもっていたという点、そして大衆向けの実践を通じて自分達の独自性をさらに磨きをかけていった点と言えるでしょう。

事業ピボットの重要性

事業ピボットの重要性

特にスタートアップ企業では、ピボット(軸)といって、創業の事業をがらっと変えて、まったく違う事業内容で再スタートすることがあります。これは勢いで起業したけど、優位性や市場性が想定したほど無かったり、より大きい機会がありそうな場合によくみられます。

ピボットが成功するとは限りませんが、スタートアップらしいスピード感のある経営判断もっとも発揮されるのがこの面と言えます。

以前聞いたスタートアップの事例でもユニークな企業がありました。その会社は小売→キムチの販売→オンラインサービスと2回のピボットをして3回目で大きい資金調達に成功したとのことで、スピード感がすごいと感心しました。

ただ企業規模が大きくなるほど、社員も組織も専門性が高くなるのと、株主や取引先などのステークホルダーが増えるので、説明と説得が困難になり、ピボットは難しくなります。

トライアルのユニークさとは

業態転換をする困難さ

トライアルが極めてユニークなのは、すでに事業規模が大きいのに、まったく違う業態にピボットし、しかも2回とも成功させている事ですね。新規事業に取り組むだけでなく業態まで変換するのは並大抵のことではありません。

業態転換の核

ただし、一見、小売→ソフト開発→小売というのはまったく無関係の無謀な業態転換のようですが、業態ではなく中核にPOS技術の優位性があり、それを最も活かせる方法として業態転換をしてきたと考えれば一本太い筋が通っているのがわかります。むしろPOSに強みをみつけた会社が、一度目の転換では開発と研究のために、二度目の転換では実践のために、とあくまでも優位性を追求してきたと考えれば、自然なピボットだったということでしょう。

一般の人が通常企業を見る場合はどうしても業態を第一に見てしまうと思います。これを多くのステークホルダーに納得させ、転換に成功させて来たのは、並外れた努力があったのでしょう。これが何より非凡な部分だと思います。

終わりに

成功するピボットには思いもよらない核がある。それは外部に見えてなくても、自分たちが信じる優位性にある、そのことをトライアルの成功は教えてくれます。その優位性は誠意を持って説明すればステークホルダーも説得し、大きい成功につながることでしょう。

皆様の会社が、自社の優位性を発見したい、社員とともに考えたい、という場合に外部視点からのお手伝いも可能です。ぜひこちらからご相談ください。

本記事の参考情報

トライアル沿革
ITの力で小売りを変革 トライアルホールディングスとは
トライアル「小売りを科学したい」(読売新聞2023/6/16記事)

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